妊娠と潜在性甲状腺機能低下症
妊娠と甲状腺の関係
妊娠は、女性にとって極めて大きなライフイベントです。この特別な期間には、女性の体だけでなく、赤ちゃんにも大きな変化が起こります。その一つが、甲状腺という臓器の働きです。
甲状腺は、体全体の代謝を調節するホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは、心拍数、体温、エネルギーレベルなど、体の様々な機能に関わっています。特に、脳の発達には欠かせないホルモンです。
妊娠中は、胎児の成長に合わせ、お母さんの体には多くの変化が起こります。その中でも、甲状腺ホルモンの必要量は大幅に増加します。これは、胎児の脳の発達に不可欠なためです。
潜在性甲状腺機能低下症とは?
潜在性甲状腺機能低下症とは、明らかな症状が出ない程度の軽い甲状腺ホルモンの不足状態です。血中の甲状腺ホルモン(FT3、FT4)は正常であるのに、下垂体が分泌するTSHが基準値を超えている状態です。自覚症状はほとんどありませんが、高コレステロール血症や不妊、流産のリスクを高めると言われています。
妊娠中の甲状腺ホルモンの役割と重要性
母体の甲状腺ホルモンは胎盤を通して胎児に移行し、胎児の知能や身体の発育に必須の働きをします。母体の甲状腺ホルモンが不足すると胎児の発育が遅延したり、流産・早産などの原因になります。さらに、妊娠中は甲状腺ホルモンの需要量が増加するため、妊娠前からホルモンの補充をしている肩は、補充量を25〜50%増やす必要があります。また、潜在性甲状腺機能低下症で、妊娠前は補充療法を行っていなかった方は、計画妊娠の段階から補充を開始することが勧められます。計画妊娠〜分娩後の甲状腺ホルモンの補充療法
妊娠前〜分娩TSH管理目標
甲状腺機能のコントロールは、下垂体から分泌されるTSHを指標に次のように行います。
妊娠前~妊娠初期(13週): TSH < 2.5μU/ml
妊娠中期以降(14週~): TSH < 3.0μU/ml
分娩後:TSH<3.7μU/ml(SRL)
妊娠中の定期的な受診
- 妊娠4~6週: 妊娠が判明したら、できるだけ早く受診し、甲状腺機能をチェックしましょう。
- 妊娠30週前後: 妊娠中期以降も、定期的に甲状腺機能をチェックすることが大切です。
分娩後の管理と注意
分娩後は、甲状腺ホルモンの必要量が減るため、甲状腺ホルモンの補充量は、妊娠前に戻るのが基本です。ただし、橋本病の方は、時間の経過による甲状腺機能の低下が進んでいる可能性があるため、やや補充量をやや多めに残すことがあります。また、 橋本病の方は産後1~2ヶ月頃に、無痛性甲状腺炎を発症することがあります。症状としては、動悸や疲れやすさですが、授乳で寝られない日々と重なるため、甲状腺の病気と気づきにくいことが多いです。無痛性甲状腺炎は大抵は1〜2ヶ月で自然に治ります。
まとめ
妊娠中は、お母さんの健康だけでなく、赤ちゃんの健康のためにも、甲状腺の管理が非常に重要です。甲状腺の病気がある方、または妊娠中に甲状腺に異常を感じた方は、どうぞ早めに相談されてください。