運動療法
運動はウォーキングやジョギングなどの「有酸素運動」とスクワットや腕立て伏せなどの「筋力トレーニング」の2つに分けられますが、糖尿病の運動療法ではどちらも行うことが推奨されています。
また、運動量は強度・頻度・時間の3つで決められ、それぞれ糖尿病患者さんにとって適したレベルがあります。
ガイドラインで推奨されている運動量は以下の通りです。
有酸素運動:中くらいの強度の運動を2日以上運動しない日を作らないように週3日以上、できれば毎日、合計150分/週以上行うこと
筋力トレーニング:週2-3日、2日続けてトレーニングを行わないように、全身の主要な筋肉を使う5種目以上のトレーニングを行い、徐々に強度とセット数を増やしていくこと
高齢の糖尿病患者さんにとってはかなりハードな運動量かもしれませんが、65歳以上の方であっても推奨される運動量は変わりません。
それではガイドライン通りの運動量でなければ治療効果を見込めないのでしょうか?
決してそんなことはありません。
強度・頻度・時間を工夫して運動に取り組むことで糖尿病の治療に役立てることができます。
お仕事が忙しくなかなか運動に取り組む時間を作れない方は、強度を上げて頻度と時間を減らすことで運動療法を行うことが可能です。
例えば、週末だけ強度の高い運動(ランニングや水泳)を75分行うといったやり方でも効果があります。
職場環境にもよりますが、仕事の休憩時間に高強度インターバルトレーニング(HIIT)を行うなども良いでしょう。
そして、肥満のある方のダイエットに効果的なのが日常生活行動(Non-Exercise Activity Thermogenesis)を増やすことです。
普通に座っている状態の酸素摂取量(3.5 mL/kg/分)を1として運動の強度を表したものがMETs(メッツ)です。
例えば、立っている状態が1.8メッツ、普通に歩くのが3メッツ、ゆっくり階段を上がるのが4メッツとなります。
立ち上がるだけでエネルギー消費は座っている状態の1.8倍になります。
ちょこちょこ動くことを積み重ねることでエネルギー消費量は莫大なものとなり効果的に痩せることが可能です。
運動後の血糖降下作用を急性効果、運動を続けることによって血糖が下がりやすい状態になることを慢性効果と言います。
食後の高血糖を改善するためには食後すぐに動いた方が良いのですが、直後に運動をすると食べ物を消化する胃腸に負担がかかってしまいます。食後30分ほど経った後に運動をすると良いでしょう。
運動の急性効果は運動後24-48時間経つと消えてしまいます。
したがって、運動は2日以上空けずに継続することが大切です。続けることによって慢性効果が現れ、より効果的に血糖値が下がるようになるわけです。
1型糖尿病患者さんはインスリン分泌能が低下しているためか運動療法が長期的に血糖値を良くするかどうかについてはまだエビデンスが不十分です。
しかし、運動は血糖値だけでなく血圧やコレステロール値を下げ、心肺機能や免疫など様々な体の働きに良い効果があります。
2型糖尿病患者さんも1型糖尿病患者さんも定期的な運動習慣をもつことが健康な方と変わらない人生を送る上で大切だと考えられます。
<参考文献>
日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024
Hamasaki H. Daily physical activity and type 2 diabetes: A review. World J Diabetes. 2016;7(12):243-251.