糖尿病の合併症
糖尿病は血糖値が高い状態が長く続き全身の血管が傷む病気です。
血管のダメージが進行すると「合併症」が起こります。
糖尿病の治療が進歩したおかげで重い合併症は減りつつありますが、合併症が進行し命に関わる状態になることがあるため、定期的な検査と適切な治療が大切です。
【糖尿病神経障害】
糖尿病と診断されたときに数%の患者さんはすでに神経障害を起こしていると言われています。
症状
運動神経・経感覚神経・自律神経いずれも障害されることがあり、症状は多彩です。糖尿病の患者さんで“足がつる”(こむら返り)方は神経障害の可能性があります。
最も多い症状は両手足のしびれや痛みですが、自律神経が傷つくと、めまい・動悸・汗の異常・下痢や便秘など全身の症状が現れます。
眼を動かす神経や顔面の神経が突然麻痺してしまうこともあります。
さらに、神経障害が進行すると、低血糖を起こしても気づかなかったり、足にケガをしても気づかず重い感染症を起こしたり、心筋梗塞を起こしても痛みを感じず命に関わる状態になったりしていまいます。
治療
まず、血糖値を良くすることが必要です。
足に症状が現れることが多いので、よく足を見てフットケアを行いましょう。
初期段階であればアルドース還元酵素阻害薬(エパルレルスタット)による治療で改善する可能性があります。
進行してしまうと、痛みやしびれなどの症状を緩和させる薬(デュロキセチンやプレガバリンなど)による対症療法となります。
自律神経障害を改善させるお薬は現在のところありません。
【糖尿病網膜症】
眼の奥の小さな血管が傷つき放っておくと眼底出血や網膜剥離を起こす合併症です。成人の失明の原因第2位(約20%)となっています。
症状
網膜症は進行するまで症状がありません。
進行すると物がゆがんで見えたり視野が一部欠けたり視力が下がったりします。
治療
糖尿病のコントロールを良くすると同時に血圧やコレステロールの値も良くする必要があります。中性脂肪を下げるフィブラートというお薬は網膜症の進行を抑える効果があると言われています。
眼底出血や黄斑(目の神経が集まっている部分)浮腫、網膜剥離などを起こしている場合、眼科で専門的な治療が必要になります。
・光凝固術(レーザー治療)
網膜にレーザーを当てて、異常な血管が新しくできる防いだり、異常な血管を固めたりします。
・硝子体手術
大きな眼底出血や網膜剥離が起きている場合、手術を行います。
・硝子体内注射
ステロイドや抗VEGF抗体(ルセンティスやアイリーア)を眼の奥(硝子体)に注入して異常な血管が新しくできるのを防ぐ治療法です。糖尿病が原因で起こる黄斑浮腫に対しても行われる治療です。定期的に何度も注射を繰り返す必要があります。
【糖尿病腎症】
血糖値が高い状態が続き腎臓の組織が壊れたり硬くなったりして起こる合併症です。
JDDM (Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group) の研究によると、2型糖尿病患者さんのうち約30%にタンパク尿が見られ、約15%に腎機能低下を認めました。末期腎不全に進行し透析療法導入となる原因の第1位となっています。
症状
他の合併症と同様に初期はほとんど無症状ですが、代表的な症状はタンパク尿と血圧上昇です。進行して腎機能が低下すると疲れやすさ、皮膚のかゆみ、骨や関節の痛み、手足のむくみなどが現れます。症状ではありませんが、貧血や高カリウム血症などを起こすことがあります。
治療
糖尿病の状態を良くしてキープすることが第一です。
腎症の進行を抑えるお薬として、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(エナラプリルなど)、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(オルメサルタンなど)、SGLT2阻害薬(ジャディアンス、フォシーガ、カナグルなど)、GLP-1受容体作動薬(ビクトーザ、トルリシティ、オゼンピックなど)があります。
また、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(ケレンディアやミネブロ)は腎症の進行抑制に有効である可能性があります。
食事に含まれるタンパク質の摂取制限は腎症の進行抑制に有効である可能性はありますが、科学的なエビデンスは十分ではありません。
<参考文献>
日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024