食事療法
従来より、糖尿病の食事療法はカロリー制限食がメインでした。
まず、下の式から1日の摂取カロリーを決めます。
適正な1日の摂取カロリー = 標準体重(身長(m)2×22) ×身体活動量(デスクワーク:25-30,立ち仕事:30-35,力仕事:35-) |
※65歳以上の高齢者は、サルコペニア・フレイル予防(加齢とともに身体機能が低下する状態)のため標準体重を身長(m)2×22-25で計算します。
次に、栄養素(主に炭水化物・タンパク質・脂質)のバランスを考えて、どんな食材をどれくらい摂るか考えます。
炭水化物(糖質):適正な1日の摂取カロリーの40%-60%
タンパク質:1.0-1.2 g/標準体重kg(適正な1日の摂取カロリーの20%まで)
脂質:炭水化物とタンパク質以外(適正な1日の摂取カロリーの20%-25%)
そして、食品交換表等を使って毎日の献立を決めます。患者さんのお仕事やライフスタイルを考えながら個別の栄養指導を行います。文字通り「カロリー」に注目した食事療法であり、患者さんも「カロリー」の高い低いで食材を選ぶ傾向があるように思いますが、糖尿病の食事療法において「カロリー」と同じように「栄養素のバランス」もとても大切です。
例えば、ステーキや卵にはほとんど糖質が含まれていないので、たくさん食べても血糖値はほとんど上がりません。タンパク質と脂質だけを摂った場合、基本的には血糖値が上がりません。血糖値を上げるのは糖質のみであり、糖尿病の食事療法として糖質制限食(糖質の摂取量を適正な1日の摂取カロリーの40%未満にする)が注目されてきました。まだ結論が出ていない部分もありますが、減量や心血管疾患(心筋梗塞、心不全や脳卒中)のリスクを下げることに関して、糖質制限食とカロリー制限食の有効性に差はないことが報告されています。
また、6-12か月という短期間であれば、糖質制限食は2型糖尿病の患者さんが“寛解”(HbA1c < 6.5%)に至るという点でカロリー制限食より有効とされています。日本糖尿病学会も2024年の診療ガイドラインにおいて、短期間の糖質制限食であれば糖尿病の治療に有効であるとしました。米国糖尿病学会は糖尿病を予防する食事療法として糖質制限食に加えて地中海食とDASH食を推奨しています。
地中海食:イタリア、ギリシャ、スペインなどの地中海沿岸の国々の人が食べている伝統的な料理。野菜・果物・魚が豊富で、オリーブオイル・ナッツ類、豆類、全粒粉パンなどを使い適量の赤ワインを飲む。
DASH食:高血圧予防・治療を目的に開発された食事。野菜、果物、豆、ナッツ類、全粒穀物、低脂肪乳製品を豊富に含み、カリウム、カルシウム、マグネシウムの3つのミネラルと食物繊維をたくさん摂ることができる。動物性の飽和脂肪酸とコレステロールが少ない。食事療法は患者さんのライフスタイルに合わせて行う必要があるので、すべての患者さんに合うベストな食事は存在しませんが、ひとりひとりの患者さんに適した食事療法を一緒に考えていきましょう。
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<参考文献>
Naude CE, Brand A, Schoonees A, Nguyen KA, Chaplin M, Volmink J. Low-carbohydrate versus balanced-carbohydrate diets for reducing weight and cardiovascular risk. Cochrane Database Syst Rev. 2022;1(1):CD013334.
Goldenberg JZ, Day A, Brinkworth GD, et al. Efficacy and safety of low and very low carbohydrate diets for type 2 diabetes remission: systematic review and meta-analysis of published and unpublished randomized trial data. BMJ. 2021;372:m4743.
American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes-2023. Diabetes Care. 2023;46(5):S1-S322.