バセドウ病
バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の原因として最多です。TSH受容体に対する自己抗体(TSH受容体抗体;TRAb)が体内でリンパ球から作られてTSH受容体を刺激し続け、甲状腺ホルモン(T4, T3)が過剰に産生・分泌され、全身の代謝が亢進することによる様々な臨床症状を呈する状態を言います。
バセドウ病の患者数は女性が男性の3~5倍ほどと優位に多く、特に20代から40代にかけて好発します。発症の原因は、ストレスなどの環境的な要因が関係しているほか、家族内にバセドウ病の患者さんがいる方は発症しやすいと言われています。
日本ではバセドウ病と呼ばれていますが、英語圏では一般にアイルランド人医師の名前にちなんでグレーブス病とも呼ばれることが多いです。
症状
- びまん性甲状腺腫大
- 頻脈
- 眼球突出
- 動悸や息切れ
- 手の震え
- 多汗
- 全身倦怠感
- 体重減少
- 目がとび出たり目が完全に閉じないなど眼の症状が出る
- 炭水化物の多い食事をした後や運動の後などに手足が突然動かなくなる発作が起こる(周期性四肢麻痺)
診断
臨床経過
バセドウ病の診断が必要になるのは、甲状腺中毒症の症状で受診するケースが最も多いです。そのため、甲状腺中毒症のもう一つの最多の原因である無痛性甲状腺炎との鑑別が重要です。無痛性甲状腺炎は自然経過で寛解しますが、バセドウ病は治療をしない限りは自然寛解しないため、経過が3ヶ月以上と長い場合は、バセドウ病の可能性が高まります。そのため、臨床経過の問診が極めて重要です。
身体所見
また、症状や身体所見も極めて重要で、甲状腺中毒症の特徴が顕著に表れている場合は、バセドウ病の可能性が高まります。
甲状腺エコー
さらには、甲状腺の大きさや実質の血流増加、腫瘍(しこり)の合併の有無を確認するため超音波検査を行います。
血液検査
甲状腺ホルモン(FT3、FT4)濃度の上昇、甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度の低下、TSHレセプター抗体(TRAb・TSAb)の高値などを確認します。FT3/FT4比が2.5以上、TRAbが3.0IU/l以上の場合はバセドウ病の可能性が高いと言えます。
甲状腺シンチグラフィ
鑑別診断が難しいケースでは、甲状腺シンチグラフィ検査を行うため、近隣の基幹病院に紹介します。放射性ヨウ素(123I)、テクネシウム(99mTcO4-)は甲状腺に取り込まれる性質があるので、バセドウ病のようにホルモン産生過剰の場合は取り込み率が高くなります。放射性ヨウ素を用いる検査では、検査の7日前からヨウ素を含む食品の制限が必要です。 テクネシウムも、ヨードと同じように甲状腺に取り込まれますが、 甲状腺ホルモンには組み込まれず、ゆっくりと排泄されるため、ヨード制限が必要ないという利点があります。いずれも放射性物質を使用しますので、妊娠中の方は検査ができません。また授乳中の方は、検査日を含めて数日間授乳を中止する必要があります。
治療
バセドウ病の治療は、1)内科的治療、2)外科治療、3)放射線治療、の3種類の治療法があります。抗甲状腺薬にはチアマゾール(メルカゾール®)やプロピルチオウラシル(プロパジール®)などがあります。完治には長い期間を要します。
抗甲状腺薬の副作用としては、5%に皮疹、0.1〜0.2%に白血球の減少や無顆粒球症が生じることがあります。これらの副作用は服用開始から3か月以内に発現することが多く、無顆粒球症が生じたら直ちに服薬を中止し、他の治療法(外科治療、アイソトープ内用療法)に切りかえる必要があり、この場合は基幹病院に紹介となります。
概要 | 長所 | 短所 | |
内科的治療 |
抗甲状腺薬(メルカゾール®やプロパジール®)の内服で甲状腺ホル モンの合成を抑える。 |
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外科治療 | 甲状腺の一部を残して、大部分を切除する(亜全摘) |
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放射線治療(アイソトープ内用療法) |
放射性ヨードを服用することにより、甲状腺組織を破壊し、甲状腺の細胞の数を減らす治療。 |
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