尿崩症
尿崩症とは?
尿崩症は、体内の水分量を適切に調節できなくなる病気です。腎臓が通常よりも多量の水分を排出し、多尿(1日3L以上)や強いのどの渇き(口渇感)が主な症状として現れます。抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌や作用が低下するこが原因です。
尿崩症はまれな病気で、有病率は約25,000人に1人程度、世界の人口の約0.004%とされています。発症は遺伝的要因や外傷、手術後、脳腫瘍、脳出血・脳梗塞、感染症(結核など)、炎症などに起因することが多く、すべての年齢層に見られます。男女差はありません。
脳の視床下部や下垂体に異常が生じてバソプレシンの分泌が低下する「中枢性尿崩症」と腎臓がバソプレシンに対して正しく反応しない「腎性尿崩症」という2つのタイプがあります。
尿崩症の症状
尿崩症の主な症状は3つです。
尿がたくさん出る: 1日に3リットル以上の尿が排泄されることが一般的で、時には10リットル以上になることもあります。
のどが異常に渇く: 過剰な水分損失を補うため、頻繁に水分を摂取したくなります。
水をたくさん飲む: 個人差がありますが、尿崩症の方は通常100 mL/kg/day(体重50kgの人で1日5L)以上の水を飲むようになると言われています。10 L以上の水を飲むケースもあります。
また、尿崩症が長期間にわたって未治療のままだと、電解質バランスが崩れ、血中ナトリウム濃度が上昇(高ナトリウム血症)することで、意識障害やけいれんなど重篤な症状を引き起こすこともあります。
尿崩症の診断と検査
中枢性尿崩症は、3つの症状があり、尿量、尿の濃さ、負荷試験の結果が一定の基準を満たすことで診断されます。
・喉が渇く、水をたくさん飲む、尿が多いといった症状がある
・尿の量が大人では一日3 L以上(または40mL/kg以上)、子どもでは一日2 L以上
・尿が濃くない(尿浸透圧が300 mOsm/kg以下)
- 高張食塩水負荷試験: 5%の高張食塩水を点滴(0.05 ml/kg/minで120分間点滴投与)した時に、血漿浸透圧(血液中のナトリウム濃度)が高くても馬車道ブレスト分泌が低下していることで陽性となります。
- 水制限試験: 患者に一定時間水分摂取を制限し、体がどの程度水分を保持できるかを確認します。尿量や血液中のナトリウム濃度、体重の変化を観察します。3%の体重減少あるいは試験開始から6.5時間経過したときに終了とし、尿浸透圧が300 mOsm/kgを超えないことで陽性となります。
- バソプレシン負荷試験: バソプレシン(ピトレシン注射液®)5単位皮下注後30分ごとに2時間尿を調べ、尿量が減少し尿浸透圧が300 mOsm/kg以上に上昇する場合を陽性とします。
通常は、負荷試験を行う前に血液検査と尿検査を行い、電解質バランスや血中ナトリウム濃度、尿の浸透圧などを確認します。尿が非常に薄いことや血液中のナトリウム濃度が高い場合、尿崩症の可能性を考えます。
MRI検査: 中枢性尿崩症が疑われる場合、脳のMRI検査を行い、視床下部や下垂体に異常がないか確認します。
心因性多飲症(心の問題で異常な量の水を飲んでしまう)と腎性尿崩症でないことを確認します。腎性尿崩症は遺伝性のもの以外に腎臓の病気、低カリウム血症、高カルシウム血症、リチウムなどの薬剤が原因となりますが、バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めません。
尿崩症の治療
尿崩症の治療は、原因によって異なります。腫瘍や感染症が原因の場合は、それに対する治療を行います。原因を取り除いても尿崩症が改善しない場合、原因の治療が難しい場合には、以下のような治療が行われます。
1. 中枢性尿崩症
中枢性尿崩症では、バソプレシンと似たデスモプレシンの投与を行います。デスモプレシンは内服薬や点鼻薬として利用され、体内で水分を保持する働きを助けます。また、適切な水分補給が重要であり体重に応じて水分摂取量を決めます。治療中は定期的に電解質(ナトリウム)のモニタリングが必要です。
2. 腎性尿崩症
腎性尿崩症の場合、デスモプレシンは効果がありません。十分な水分補給や塩分制限を行います。サイアザイド系利尿薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)使われることもあります。
生活管理とフォローアップ
尿崩症の患者さんは、生活の中で特に水分管理に注意を払う必要があります。多尿や口渇感が強い場合、水分摂取のスケジュールを立てることで脱水を防ぐことができます。外出時などには常に水分を持ち歩く習慣を身につけましょう。
定期的な医療機関でのフォローアップも重要です。血液・尿検査を定期的に行うことで、治療が適切かを確認します。特に中枢性尿崩症の患者さんでは、電解質バランスを定期的にモニタリングし、高ナトリウム血症や低ナトリウム血症が起こらないように注意します。
<参考文献>
間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版.
Hui C, Khan M, Khan Suheb MZ, et al. Arginine Vasopressin Disorder (Diabetes Insipidus) [Updated 2024 Jan 11]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK470458/